2008年12月6日土曜日

生まれた場所の力

8月最後の週は夏休み気分も終わり、
職場でも会議や準備が始まる時期だ。
その週にわたしは職場へ行けなくなった。
   
もちろん夏休み最後なんて、
誰にだって仕事を思い出したくない最悪の週だ。
でも普通は嫌だからと言って休むことはしない。大人だし。
しかしわたしは結局大事な会議が組まれていた水、木、金と
3日間行くことができなかった。大人なのに。

行かなければとは思っている。

大事な日だというのも重々わかっている。
でも動けない。家を出られない。
カラダがダルくて仕方なかった。
   
でもさすがに3日目の金曜日、
何かしなければと思った。
  
そしてフラフラと家を出て向かったのは、
電車で1時間半から2時間かかる、
実家のある山に囲まれた町だった。
何かにすがろうとしていたのだろう。



実家には寄らなかった。どこへ行くともなく、

駅から川へ向かう道を選んだ。
橋の上から見た川は、前日のゲリラ豪雨で薄ネズミ色に変わり、
流れの速い水は激しくうねっていた。
川は力強かった。

橋を渡り山側へ進む。
小学生の頃に来ているはずだ。
1月には毘沙門様(びしゃもんさま)のダルマ市があって、
古い映画のように屋台が沿道の両脇にたくさん立ち並ぶ。
その山には分け入らないで川沿いを歩いていると、
見たことのない公園への入り口があった。
  

入り口は広く舗装され、山の奥へと伸びていた。

入って行ってみると途中で道が大きくUの字を描いて
山の上へと上っていく場所があった。
中央が芝生のように短い草だったので、
元気な草木がまるで身を乗り出した観衆のようで、
小さなスタジアムの中央に、
サポーターの応援を受けて一人立っているような気分だった。
木と草の匂いがした。
木々の緑が回りを取り巻き、優しく包んでくれていた。

自分の行きる世界は、

ここだっていいじゃないか、と思った。

9月に入り授業が始まった。

どうにも行けなくなる前の、
新学期の2週間はきっちり仕事をした。
放課後、他の教員に付き添って病院まで行き、
生徒のことで主治医と相談までした。
    
わずか2週間だったけれど、
この2週間を乗り切れたのは、
生まれ育った土地の川や木や山たちからもらった
力のお陰だったと思っている。