職場でも会議や準備が始まる時期だ。
その週にわたしは職場へ行けなくなった。
もちろん夏休み最後なんて、
誰にだって仕事を思い出したくない最悪の週だ。
でも普通は嫌だからと言って休むことはしない。大人だし。
しかしわたしは結局大事な会議が組まれていた水、木、金と
3日間行くことができなかった。大人なのに。
行かなければとは思っている。
大事な日だというのも重々わかっている。
でも動けない。家を出られない。
カラダがダルくて仕方なかった。
でもさすがに3日目の金曜日、
何かしなければと思った。
そしてフラフラと家を出て向かったのは、
電車で1時間半から2時間かかる、
実家のある山に囲まれた町だった。
何かにすがろうとしていたのだろう。
実家には寄らなかった。どこへ行くともなく、
駅から川へ向かう道を選んだ。
橋の上から見た川は、前日のゲリラ豪雨で薄ネズミ色に変わり、
流れの速い水は激しくうねっていた。
川は力強かった。
小学生の頃に来ているはずだ。
1月には毘沙門様(びしゃもんさま)のダルマ市があって、
古い映画のように屋台が沿道の両脇にたくさん立ち並ぶ。
その山には分け入らないで川沿いを歩いていると、
見たことのない公園への入り口があった。
入り口は広く舗装され、山の奥へと伸びていた。
入って行ってみると途中で道が大きくUの字を描いて
山の上へと上っていく場所があった。
中央が芝生のように短い草だったので、
元気な草木がまるで身を乗り出した観衆のようで、
小さなスタジアムの中央に、
サポーターの応援を受けて一人立っているような気分だった。
木と草の匂いがした。
木々の緑が回りを取り巻き、優しく包んでくれていた。
自分の行きる世界は、
ここだっていいじゃないか、と思った。
9月に入り授業が始まった。
どうにも行けなくなる前の、
新学期の2週間はきっちり仕事をした。
放課後、他の教員に付き添って病院まで行き、
生徒のことで主治医と相談までした。
わずか2週間だったけれど、
この2週間を乗り切れたのは、
生まれ育った土地の川や木や山たちからもらった
力のお陰だったと思っている。