1998年に「たけしの誰でもピカソ」という番組に於いて、アートバトル3代目グランプリ獲得を契機に、1999年第3回文化庁メディア芸術祭デジタルアートのんインタラクティブ部門大賞授業、2000年同優秀賞受賞などなど、その独自の世界が評価、注目されているアーティスト。
寡聞にしてわたし、知りませんでした。こんな妖しいフィギュアを作る人がいたとは。もちろんフィギュアは表現手段の一つであって、もっと大きなCGや、もっと巨大な立体作品も制作されているようなので、凄いのは彼の作り出した「世界観」なんだろう。
でも、例えばマニアックな例えで申し訳ないけれど、Yesだったら「危機(Close to the Edge)」みたいに、作家性や作品群から見える世界観にたどりつかなくても、この一作に打ちのめされたというモノがある。それをきっかけに、その作家の世界に踏み入っていくのだけれど、やっぱり常にそこに戻ってきてしまうような強烈な作品が。
本書で紹介されている岸啓介の作品群は、フィギュアにもCGにも、種類を分けていても共通の世界感を感じる。しかし圧倒的にフィギュアの持つ質感がいい。
彼の作品は、丁寧に作り込まれ複雑に重ね合わされた各部分と、意外と単純にできてる構造との対比、人力で動く部分とロボティックな構造の融合、異形のもの たちとレトロな雰囲気の意外性など、言い尽くせない魅力を持つ。しかし本書の作品全体を通して感じられるのは、各作品世界を補う挿絵や文章の効果もあって、不思議で不気味でユーモラスな世界(左写真:ウェブサイト「岸信介読本」より)。
昆虫や魚なども魅力的なのだが、やはり「おっと、お江戸のカラクリ伝」に分類されているものなどの、人の顔が造形に含まれる作品の魅力は格別で、その白眉と言えるのが圧倒的な迫力と不気味さと優しさが一体となった「大天使」(下写真:本書より)だった。まさに強烈なインパクトを与えられた一作。まさにYesにおける「危機」。
もちろん他の作品の凄さも並大抵のものではない。「狐の嫁入り」はちょっと宮崎駿モンスター風だし、「サーカスロボット」はブラザーズ・クエイ(Brothres Quay)を思わせる。人によって、あるいは見る時期や気分によって、インパクトのある作品は変わるのかもしれない。
Yesにだって「危機」以外にも、「こわれもの(Fragile)」や「リレイヤー」があるっていうことだ。って、だから例えがマニアックだってば。