2019年8月14日水曜日

「天気の子」新海誠 監督

  
歴史的大ヒット作「君の名は」は
確かに良くできた作品だったが、
個人的には同年に公開された
「シン・ゴジラ」や「この世界の片隅に」の
大きな衝撃には及ばなかった。

どこかしっくりこない、

素直に感動できない、
妙なモヤモヤが残ったのだ。
  
「天気の子」にも
やはり、そんなモヤモヤが残る。
  
それは多分、なぜ相手を好きになるかという理由に
説得力がないまま、
「会いたいんだ〜!」「救いたいんだ〜!」という
感情のMAX状態に突っ走ってゆく流れに
乗り切れないから、じゃないかと思う。
  
ただし、個人的には
「君の名は」よりも「天気の子」の方が
ずっとインパクトがあった。
なぜだろう。
  
  
一つの理由は、
どす黒い雲に覆われた雨空が一ヶ所だけ開け、
一筋の光の帯を地上に落とすという、
それだけでも劇的な場面を、
深海監督得意な、超美麗な絵と演出で、
さらに美しくさらにドラマティックに
何度も描いてくれるからだろう。
この開放感は、恐らくここでしか味わえない体験である。
  
確かこういう光のことを
God Ray(神の光)とかAngel's Ladder(天使の梯子)とか
呼んだように思う。
昔から写真や絵画でも取り上げられる人気の題材なのだが、
それを動きとしてここまで描いたのは
素晴らしいとしか言いようがない。
  
その超絶美麗な光の演出が、
今回はきっちりと物語に密接にリンクしていたため、
そこを丁寧に描く意味が十分に感じられたことも、
作品としての力強さになっていた気がする。
  
  
決して成就されることのない
「今のこの瞬間が永遠に続きますように」
という願いの切なさも、
新海誠お馴染みのテーマだし、
それほど強い思いを感じた瞬間であっても、
時は過ぎ、自分が大人になり、
世界は大きく変わることなく
自分はただ、平凡な日常に埋没していて、
その時のことを思い出として心に残している、というのも
やはりお決まりな流れだ。
  
ただし、今回は「大人」とか「社会」という
抑圧の対象をはっきり描いているところが違う。
ピストルを手にした主人公には、
大人に分かってもらえない若者の苛立ちが、
一瞬垣間見えるのだ。
もちろん大人=悪などと単純な図式にはなっていない。
(実際、本作品中一番の悪役である
 風俗店のチンピラな店員ですら、
 一瞬家族と一緒にいる穏やかな場面が描かれる)
でも、若者の(あるいは誰もの)生きづらさは
瞬間的であれ、こちらに訴えてくるものがある。
  
そしてラスト、
「君の名は」的に、パッピーエンドな雰囲気を作りながら、
再会した二人がその後どうなるかは分からず、
世界を変えてしまったという現実を
それぞれがどうこれから抱えてゆくのかも分からず、
実は、かなりすっきりしないエンディングだ。

二人が空から落ちてきた時に死んでいたら、

行き場のない若者の悲劇として
もっとドラマチックな作品になっていたかもしれないが、
こうして、その後の平凡で退屈な日常に戻るところが、
やはり新海誠が常に描こうとしている〝喪失感〟なのであり、
新海誠らしさだろう。
  
そして、「天気の子」のラストの喪失感は、
絵的には「君の名は」に似た再会で終わるにもかかわらず、
高揚感ははるかに低い。
だからこそ、新海誠らしくて良いのだと思う。
  
前回に引き続き、
やはりキャラクターデザインが今ひとつ好きになれないのと、
主人公たちの性格付けが薄いのが残念だが、
「君の名は」よりも、新海節が戻ってきた、
真っ直ぐな良い作品だと思う。
うるっとくるところはあるけれど、
泣く映画ではない。
  
ただ、「ねえ、今から晴れるよ」の破壊力は
文句なく凄まじい。
どこかへ持って行かれる。