2012年2月18日土曜日

「ブレイク・ザ・サイレンス」ヴァン・カント

  
しばらくチェックしていなかったらアカペラ・メタルのVan Kanto(ヴァン・カント)の新譜が出ていた。2011年9月発売の「Break the Silence」である。

その後12月にこれまで出したアルバムからメタルバンドのカバーを集めた日本独自の企画盤も出ていたが、やっぱりカバー&オリジナル曲が聴ける正規アルバムがいい。ということでさっそく購入して、今ヘビー・ローテーション中である。

ボーナス曲を除くと全10曲。5人アカペラにドラムスというバンド編成もユニークだが、リズムを声で取るというのがなんとも面白く、今まで刺激されなかった部分を突かれる感じなのだ。思わず一緒に歌いたくなってしまう人も多いんじゃなかろうか。

リード・ボーカルを男女で取れるというのもいい。バンド編成がとても緻密に考えられている。男性だけのアカペラとは違い、声質に変化があるので様々なバリエーションが作れる。この聴く者を飽きさせないというのは、アカペラ・グループの大きな課題だし、実力が問われるところだろうけど、力強いボーカルハーモニーに加え、こうした編成の妙が活かされて、どの曲も素晴らしい。カバーの選曲やゲストボーカルの起用も文句なしである。

まず冒頭「If I Die in Battle」のイントロから、アカペラ・メタルの世界に引込まれる。超低音を聴かせる導入部の演出がウマい。今回はSabatonの「Primo Victoria」、Alice Cooperの「Bed of Nails」、Manowarの「Master of the Wind」(ボーナストラックにRunning Wildの「Bad to the Bone」)とカバー曲をはさみ、オリジナル曲も充実。アレンジもアコースティックギター入りやピアノ入りなど、アカペラを活かせる範囲でうまく新しさを取り入れているし、一曲ドイツ語で歌われる曲も入れている。

DennisとIngaという二人のボーカリストの表現力も増した。ラスト曲はIngaが朗々と歌い上げるバラッドだ。…と言っておいて何なのだが、このIngaがオフィシャルでないライヴ映像など見ると実はちょっと音程が危なっかしかったりする。まぁそれは当然と言えば当然で、メタルを標榜しているわけだからドラムもボーカルも音はデカイはず。だから楽器の音でキーを確認できない中、爆音の中で自分の声を聴きながら歌うことはかなり難しいはずなのだ。

そして面白いことにIngaの、ちょっと危なっかしい歌が逆に人間味溢れていて魅力だったりするのだ。もちろんアルバムではキーを外すことなどないわけだけど、その危うい雰囲気は健在だったりする。

そういう面も含めてとてもバランスの取れた6人だと言えるだろう。ドラムスもメタルらしいリズムの強調と低音の補強に貢献しつつ、ボーカルハーモニーを邪魔しないという難しい役割を見事にこなしている。

メタル風な風貌をしてはいるものの、実はメタルな人たちに多いタトゥーをしているメンバーはいないのだ。少なくとも見える場所にハデハデには。実はかなり正統的な音楽教育を受けてきた人たちなんじゃないかと思う。 じゃなければこんなことやろうと思っても実行できなかろうし。

愛聴盤にして傑作であります。