昔々、一度おそらくテレビで見たことがあって、
強烈な印象が残っていた映画だった。
映像が、風景が、題材が、俳優が、テンポが
どれも自分が生きてきた昭和である。
それだけでも胸が締めつけられるが、
カメラワークも構図も素晴らしい。
おそらく今の感覚で見ると、
理解しづらい部分、共感しにくい部分も
いろいろとあるだろうし、
濃すぎる、暗すぎる、重すぎる感じが
今だと敬遠されることもあるかもしれないが、
ワタシには、昭和な時代の記憶が、
むしろぐっと押し寄せてきてしまったのだった。
特に後半の、ほぼ映像と音楽だけで
親子の悲惨なお遍路を見せる部分が圧巻だ。
山陰の自然の景色に二人の歩く姿が重なると、
もう泣けてきてしまうのだ。
もちろんドラマチックな映像の後ろで流れ続ける
芥川也寸志の
「ピアノと管弦楽のための組曲『宿命』」も
今聞くと少し濃すぎるきらいはあるけれど、素晴らしい。
しゃべる丹波哲郎としゃべらない加藤嘉が良いなぁ。
緒形拳、渥美清、森田健作、島田陽子、菅井きん、笠智衆など
そうそうたるメンバーが出演しているのもうれしい。
デリケートなテーマだけれど、
ほんの数十年前には、こうした世界が実際にあったのだ。
あえて、一言残念な点を挙げるとすれば、
加藤剛のピアノ演奏かな。
実際に弾いてほしかったな、無理だろうけど。