2009年3月17日火曜日

「天水」 花輪和一

  
     
「天水」(花輪和一、講談社漫画文庫、2009年)は、「刑務所の中」(青林工芸舎、2000年)で知られる花輪和一による童女と河童との旅物語。
花輪和一という漫画家は「刑務所の中」以前から、独特な画風と世界観でカルトなファンを持っていた。大学時代に結構読んだ記憶がある。
この作品は1992年から1994年にかけて、「月間アフタヌーン」に掲載された作品に、2003年の描きおろし作品を加え「完全版」と銘打った連続短編集である。
大筋としては、童女が困難に遭いながらも自分の母を探し求め、カッパがそれを助けていくのだが、カバーに書かれている“和風冒険ファンタジー
”と言う言葉にダマされてはいけない。ファンタジーという言葉は似合わない。むしろ地獄巡りの旅か。

時代は日本の中世。そこここに闇が当たり前のように存在していた時代。主人公は一人暮らしの童女と、突然現れ一緒に暮らすようになる河童。それだけでも異質。

そして何より絵が怖い。童女もかわいらしいのだけれど、どことなく大人びた顔立ちだし、河童もひょうきんな雰囲気を持ちながら、気持ち悪さが抜けない。どちらも妖しい。でもそれは主人公の妖しさではなく、彼らが生きている世界の妖しさなのだ。

その妖しいキャラクターが、モノノケに取り付かれたりすると、当然不気味さは倍増する。グロテスクですらある。ある種「ゲゲゲの鬼太郎」的な妖怪、モノノケ退治物語的な部分も多いのだが、絵の持つパワーやストーリーが、敵を倒して、めでたしめでたしで終わらない不思議な感情につながっていく。読んでいるうちに、もうその世界の住人になっているからかもしれない。

モノノケや鬼やオロチなどが、敵とか見方とかではなく、当たり前に身近にいる存在なのだ。不思議な世界だけれど、記憶の奥の方にしっかり残っている、かつての日本に存在していた世界。

「たそがれどきだ だんだん人の顔が みえにくくなってくる
 神隠しに あうのは きっと こんな 時なんだろうな...…」


童女のそんなつぶやきが、当たり前のように心に入ってくる。そんな世界。ハマリます。何となく諸星大二郎の作品を思い出してしまいました。