2009年3月6日金曜日

「バンドネオンの豹と青猫」あがた森魚

  
あがた森魚と言えば、古くは「赤色エレジー」のヒットで知られる非常に個性の強い歌い方をする歌手。ヒットした当時でさえ時代錯誤的な歌としてインパクトがあった。

でも「赤色エレジー」の昭和哀歌的世界は彼の一部に過ぎず、というか結構異色なシングルヒット作に過ぎず、彼本来の世界は夢と冒険と哀しみと優しさに満ちた、不可思議で懐かしい世界なのだ。

「バンドネオンの豹(ジャガー)と青猫」は、1987年発表の「バンドネオンの豹(ジャガー)」に始まるタンゴ三部作の第二部にあたる同年1987年の作品。タンゴ作品と言ってもオリジナルのタンゴを大切にしながらも、独自のあがたワールドにタンゴ色を取り入れた感じ。

第一部の「バンドネオンの豹(ジャガー)」の方がオリジナルタンゴへの敬意とノスタルジーが強く、タンゴの名曲に自身の詞を乗せて歌ったりしている。しかしバンドネオンにからむのはヴァイオリンかと思いきや、バリバリの高速エレキギターだったり、矢野顕子が競演した摩訶不思議な曲があったりと、意表を突くオリジナリティー豊かな曲が満載。

それに比べてこの第二部「バンドネオンの豹(ジャガー)と青猫」は、過ぎ去りし心熱き日々を振り返るような寂しさ、空しさが込められていて、第一部よりしっとりと、内省的で、なぜか涙ぐんでしまいそうになる世界に浸ることができる。それでもLP時代のB面は「バンドネオンの豹と黒猫」のためのサウンド・トラック」という21分にも及ぶ組曲。

バンドネオンとエレキギターの組み合わせなどの音楽的冒険や、シングルヒットを考えずにアルバムの完成度を求める点では、この2枚はプログレッシヴ・ロック的ですらあると思う。

彼の歌唱法は独特で、半ばモノローグ的な要素が入っているため、音程がメロディーに一致しない、というかメロディーに縛られない。でもハマると抜け出せない強烈な魅力があって、他の誰にもまねできない悲しさや美しさを伝えてくれるのだ。

ちなみに高圧線の歌はこの“サウンドトラック”に出てくる歌だった。不思議ワールドでしょ。そう言えば第三部って未だに出ていない。ずっと待ってるんだけどな。
    
   
「電気に話しかける猫」 

 風に綿帽子飛びて 高圧線に踊る
 風に綿帽子去りて 高圧線に響く  
 むかし僕らが住んでた ラジオの聴けた街では  
 識らぬ星の旅人 銀の空を撫でてた  
 月に赤い馬飛びて 高圧線に跳ねる  
 月に綿帽子降りて 高圧線は残る  
 むかし僕らが住んでた 映画に映る街では  
 人とポプラのざわめく 影帽子の空に  
 どのあたり 電気猫  
 電気に話しかける電気猫  
 くるりと宙返り  

 どのあたり 電気猫  

 電気に話しかける電気猫