あがた森魚と言えば、古くは「赤色エレジー」のヒットで知られる非常に個性の強い歌い方をする歌手。ヒットした当時でさえ時代錯誤的な歌としてインパクトがあった。
でも「赤色エレジー」の昭和哀歌的世界は彼の一部に過ぎず、というか結構異色なシングルヒット作に過ぎず、彼本来の世界は夢と冒険と哀しみと優しさに満ちた、不可思議で懐かしい世界なのだ。
「バンドネオンの豹(ジャガー)と青猫」は、1987年発表の「バンドネオンの豹(ジャガー)」に始まるタンゴ三部作の第二部にあたる同年1987年の作品。タンゴ作品と言ってもオリジナルのタンゴを大切にしながらも、独自のあがたワールドにタンゴ色を取り入れた感じ。
第一部の「バンドネオンの豹(ジャガー)」の方がオリジナルタンゴへの敬意とノスタルジーが強く、タンゴの名曲に自身の詞を乗せて歌ったりしている。しかしバンドネオンにからむのはヴァイオリンかと思いきや、バリバリの高速エレキギターだったり、矢野顕子が競演した摩訶不思議な曲があったりと、意表を突くオリジナリティー豊かな曲が満載。
それに比べてこの第二部「バンドネオンの豹(ジャガー)と青猫」は、過ぎ去りし心熱き日々を振り返るような寂しさ、空しさが込められていて、第一部よりしっとりと、内省的で、なぜか涙ぐんでしまいそうになる世界に浸ることができる。それでもLP時代のB面は「バンドネオンの豹と黒猫」のためのサウンド・トラック」という21分にも及ぶ組曲。
バンドネオンとエレキギターの組み合わせなどの音楽的冒険や、シングルヒットを考えずにアルバムの完成度を求める点では、この2枚はプログレッシヴ・ロック的ですらあると思う。
彼の歌唱法は独特で、半ばモノローグ的な要素が入っているため、音程がメロディーに一致しない、というかメロディーに縛られない。でもハマると抜け出せない強烈な魅力があって、他の誰にもまねできない悲しさや美しさを伝えてくれるのだ。
ちなみに高圧線の歌はこの“サウンドトラック”に出てくる歌だった。不思議ワールドでしょ。そう言えば第三部って未だに出ていない。ずっと待ってるんだけどな。
「電気に話しかける猫」
風に綿帽子飛びて 高圧線に踊る
風に綿帽子去りて 高圧線に響く
むかし僕らが住んでた ラジオの聴けた街では
識らぬ星の旅人 銀の空を撫でてた
月に赤い馬飛びて 高圧線に跳ねる
月に綿帽子降りて 高圧線は残る
むかし僕らが住んでた 映画に映る街では
人とポプラのざわめく 影帽子の空に
どのあたり 電気猫
電気に話しかける電気猫
くるりと宙返り
どのあたり 電気猫
電気に話しかける電気猫
「電気に話しかける猫」
風に綿帽子飛びて 高圧線に踊る
風に綿帽子去りて 高圧線に響く
むかし僕らが住んでた ラジオの聴けた街では
識らぬ星の旅人 銀の空を撫でてた
月に赤い馬飛びて 高圧線に跳ねる
月に綿帽子降りて 高圧線は残る
むかし僕らが住んでた 映画に映る街では
人とポプラのざわめく 影帽子の空に
どのあたり 電気猫
電気に話しかける電気猫
くるりと宙返り
どのあたり 電気猫
電気に話しかける電気猫