ドイツのプログレッシヴ・ロック・バンドであるノヴァリス(Novalis)の「Sommerabend(過ぎ去りし夏の幻影)」の表紙が好きで、まさにアルバムのサウンドにピッタリだと思っていた。
ただそのタッチにはアール・ヌーボーを代表するグラフィックデザイナーであるミュシャ(Alfons Maria Mucha)が描く、イラスト風な雰囲気もそこはかとなく感じられて、アルバム用に描かれたのではなく一個の作品としてあったものを使用したんじゃないかと漠然と思っていたのだった。
今回ノヴァリスのジャケットについても調べてみたところ、アメリカの画家・イラストレーターMaxfield Parrish(マックスフィールド・パリッシュ:1870-1966)の「森の少女」(1900)という作品であることがわかった。「Scribner's」というイラスト雑誌の表紙(左図)に使われたもののようである。オリジナルはジャケットほどグリーンなイメージというわけではない。
実際に画集を見てみると、「幻覚を起こさせる」と言われていた「パリッシュ・ブルー」と呼ばれる何とも表現しがたい青色が特に印象的であり、ライトを間近で当てたような強い光と陰の描き方も面白い。
そして人物や背景や、それらを含めた構図と色彩が、どこかこの世とかけ離れた不思議な世界を感じさせてくれるところがまたいいのだ。リアルな人物とシュールな背景の組み合わせの妙と言うか。
プログレッシヴ・ロック関係では、イッツ・ア・ビューティフル・デイの1st「It's a Beautiful Day」や、ムーディー・ブルースの「Present」は、ノヴァリスとは違ってパリッシュの作品そのものではないが、明らかにパリッシュを意識したジャケットだろう。特に後者はパクリと言ってもいいかも。
ジャケットではないが、日本のバンド四人囃子の2nd「ゴールデン・ピクニックス」のラストに収録されているインストゥルメンタル作品「レディ・バイオレッタ」は、パリッシュの同名の作品(右図)からインスピレーションを得て作られたのだとか(LP付属のライナーノートより)。
写真の本(右上)はPARCO出版局(1987年出版)のものだが、今は手に入れることは困難な状態である。わたしはたまたま古本で見つけてゲットできた。現在日本で出版したマックスフィールド・パリッシュの画集はないという状況は、非常に残念でならない。
ちなみに全くの想像ですが、「HANA-BI」あたりから北野武監督の作品に対して、“キタノ・ブルー”という言葉がよく使われるようになったけれど、そもそもはこの“パリッシュ・ブルー”という言葉が欧米文化人の一般知識としてあった上で、生まれた表現だったんじゃないかっていう気が、ちょっとしたのだった。