2018年7月1日日曜日

「男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎」


Amazon Primeで何気なく見始めたら、
最後まで気持ちよく見てしまった。
寅さんシリーズ第32作、1983年作の
「男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎」。

見終わって、
これは「男はつらいよ」を代表する
傑作じゃないかと思った。
  
遺産を巡って兄弟が言い争いを始める場面が秀逸。
こういう場面というと、
エゴや妬みや恨みつらみや悪意がぶつかり合う
醜いやり取りを描きがちだけれど、
もっと自然な、でもありがちな
ギクシャク感がとてもうまく出せている。
  
この、ちょっとシリアスな部分や、
寅次郎が住職の代役になるユーモラスな場面や、
特に今回はマドンナが寅次郎を本気で好きになるという、
甘く切なく、物悲しい恋心のやり取りが、
実にバランス良くまとまっているのだ。
  
若い二人と、寅次郎とマドンナの
二組の恋愛模様を描くことで、
人を愛したり、人から愛されたりした時の、
心のときめきを思い出させる演技や場面が、
目白押しなのも良いなぁ。

見事な田舎娘を演じる杉田かおるのやぼったさ。
渥美清の表情、声の調子、間のとり方の妙。
とら屋の面々のやりとりの見事なコンビネーション。
どれも素晴らしいが、
何より、マドンナ役の竹下景子の美しさと
恋心を秘めた表情の良さが、今作のキモだろう。
  
そして、人情豊かな人間関係を理想として描きつつ、
それを全面的に受け入れられない人間を描くという、
一種のアナーキーさが、
家族愛だの、親子の情だの、地域のつながりだのを、
無条件で賛美するようなホームドラマとは
一線を画していることが、良く分かるのである。
  
白か黒か、正義か悪か、敵か味方かを
すぐにはっきりさせて、
ベタ褒めするかとことん攻撃するかするような
今の時代だからこそ、
逆に、このユルさやあいまいさや、
言うに言われぬ大人の気持ちの微妙な動きが
さらに大きな魅力を発するように思う。