着いた日の夜が熱海の海上花火大会だった。
二人とも何も知らずにいたのだが、
旅館の仲居さんが教えてくれたのだった。
そこで急遽一駅隣の「熱海」まで電車で行き、
海岸まで降りて、間近で花火大会を見てきたのだ。
以来、ダウンして仕事に行けなくなっても、
夏になると、花火大会を見に、
泊りがけで熱海に行くようになったのだった。
最初に行った時のように、
花火を普通に、大勢の観客に混じって、
間近で見られるようになるかが
回復のバロメーターだと思いながら。
あの頃は、とにかく毎日が体調不良で、
さらに、気持ちも落ち込み、
人混みも、喧騒も、爆音も苦手だった。
花火大会も、近くで見るのは辛かったけど、
それでも年々少しずつ、
浜辺へと近寄って行ったのだ。
今では、最初の時と同じように、
ほかの大勢の観客と一緒に、
浜辺の階段に腰を下ろして、
約30分の花火大会を楽しむことができる。
ダウンしてから今年で10年である。
そんな〝歴史〟もあるので、
決して近くはない熱海まで
毎年何時間もかけて二人で出かけるのである。
そして、いろいろな思いを込めて、
「良かったね〜」
と言い合いながら、帰ってくるのだ。
うん、今年も行けて良かったね〜