彼の中では、「イバラード」という空想上の世界が、細かなところまで作り込まれている。マンガを見るとそれがわかる。あるいは絵に添えられたコメントからもうかがえる。彼は「イバラード」の風景を描くだけではなく、「イバラード」という世界を表現したいのだ。
しかし「イバラード」の世界のしくみを詳しく知る必要はない。様々な場面で「イバラード」世界が解説されるマンガにも、正直なところ魅力は感じなかった。逆に、細かな設定を知ることで、世界が限定され絵の魅力が損なわれることだってある。
「イバラード」は、その絵が持っている幻想的なパワーに浸れればいいのだ。どこか懐かしく、気持ちが穏やかになれる世界。その絵を見た人が自分のイバラードの世界を思い描けばよい。その世界に一時入り込み、自由に飛び回れればよい。その壮大な景色、幻想的な光の乱舞を眺めて、ぼうっと時間が経つのを忘れればいい。
久しぶりに「イバラード博物誌」(架空社、1994年)を開いて、別の時間の流れを感じることができたのだった。
あぁこの絵に描かれている小さな家に行ってみたいなぁ。