2009年2月8日日曜日

「ハイヌミカゼ」元ちとせ

「ハイヌミカゼ」は言わずと知れた元ちとせの2002年デビューアルバムである。同年の日本レコード大賞でベストアルバム賞を取ったほど有名な作品。

もともと三線と島唄を習い、高校3年の時に「奄美民謡大賞」を受賞するなど、歌の才能は秀でていたのだろうけど、歌手デビューを目指して上京したのが1998年とのことで、苦労と苦悩の日々があったのだろうと思う。

今でこそ“百年に一度の歌声”というように言われてりしてるけど、彼女の民謡調のコブシをポピュラー音楽の中でどう活かすかは、なかなか難しい課題だったと思う。このアルバムはそんな格闘の結晶であり、彼女は独特なコブシを殺さずに民謡ではない歌を歌った。新しい歌だった。

鼻にかかった声も柔らかだが、声そのものに力があるというよりは、あのコブシと一体となった時に、コブシの鋭さと声質の甘さがうまくブレンドされて、魅力を発揮するのだと思う。

   
   
歌手として聴くと、こうした素材の素晴らしさは一品なのだが、それはまた歌の表現力とは別だ。まだまだ技巧的な上手さは感じるけど、情感の入り方とコブシがうまく融合できない。だから彼女の歌う歌はある程度の曲世界からなかなか外に出て行けない。

そのため彼女の魅力を最大限に引き出すには、そのための曲が必要なのだ。最高の彼女の力を堪能できる曲。わたしにとってそれはこのアルバムに収録されている「ワダツミの歌」と「ハイヌミカゼ」である。

曲調もアレンジも似ている。ボーカルを活かしたバックの少ない音、ゆったりとしたレゲエ調のリズム、リズム感豊かなドラムス、ボトムで心地よく動くベース。どちらも先日亡くなられた元レピッシュのキーボードで、元ちとせのプロデューサーであった上田現の作詞作曲。他のアルバムも好きだし、かなり気に入った曲もあるのだけど、この2曲は別格。大きな力に抱かれるような安心感と癒され感、そして焦がれる思いの激しさが力を与えてくれる。

足取り重く仕事に向かう時、何度この2曲に助けられたことか。
もちろんアルバムとしても傑作。