2016年12月3日土曜日

「この世界の片隅に」のラストに光はあるのか


たびたび挟まれるコミカルな場面の〝間〟の上手さ、
部屋を俯瞰で描いた時の家と家族の見事な一体感、
画面の隅々にまでただよう安定感と温かみ、
夫婦が見せる他愛ない絡みの予想外なエロチックさ、
呉の家の足の悪いお母さんの立ち居振る舞いの自然さ、
呉の姉が見せる複雑な心情が乗った細やかな演技、
すずの絵を効果的に挟んでゆく計算された演出、
すずを襲う悲劇の後に畳み掛けられる実験的な手法の斬新さ、
上空からの爆弾投下や機銃掃射場面のリアルな恐怖、
射撃音、爆発音、落下音(爆弾、焼夷弾、破片)の生々しさ、
泣かそうはせずに常に距離を置いたような演出の巧みさ、
コトリンゴの胸に突き刺さる歌、
そして、場面に合わせて変化するすず(のん)の神がかった声、
一瞬たりとも緩まない、濃密な2時間、
大傑作。

丁寧に日常の物語を積み重ねたことで辿り着けた
終盤の凄惨な場面の重み。
それが希望の光へと変化するラスト。

でも考えてみれば
あの戦災孤児の女の子も間違いなく被爆しているだろう。
女の子に「夕凪の街 桜の国」に出てくる
平野皆実と同じ運命が待ち受けていても不思議はない。
希望の光は、悲劇に消えるかもしれないのだ。

それでも人は、どこかに、何かに、
暫定的に希望を見出して、
今を生きるのである。
  
すごい作品が生まれたものだなぁ。
二回見たけれど、まだまだ見足りない。
  
しかし、上部の予告編の静止画の構図の何たる凄さよ……。