「この世界の片隅に」の凄まじい画面力
この画面の何たる素晴らしさよ!
思わず見入って、見とれて、
その場所にいるような気持ちになってしまうこの部屋。
そこで、すずさんが動くのだ!(当たり前だけど)
もちろん基本的には
きちんと遠近法に則っているわけだけど、
良く見ると部分部分は歪んでいるし、
すずさんの座る位置も中心から少し外している。
そこに自然さや愛おしさが宿るのだ。
床の上、土間の上、棚の上に置かれている
さまざまなもののディテイルや質感の、
あくまでマンガ表現的に自然な中でのリアルさも良い。
部屋と小物とすずさんが完全に融合している。
そして恐ろしいほどの配置バランスの妙。
すべてが、ここしかないという場所に置かれ、
薄暗い光に照らされた障子や床や土壁などとともに、
息苦しくなるほどの美しさと安定感を
静かに、じんわりと醸し出している。
さらに、板の間に並べた食材を中心に据えながら
こうした小物すべてを上手に見せるために、
俯瞰気味なショットになっているにもかかわらず、
すずさんの顔を歪ませずに
そのままで自然に見せる
これまた、ここしかないというギリギリの視点。
こんなに緻密であたたかい絵で
全編が作られているのである。
何と言ってよいかわからないので
敢えて〝画面力(がめんりょく)〟と呼ぶが、
この画面力が半端ないのだ。
この映画の凄さが、
それも、アニメだからこそ作り得た快感が、
ここにもある。
(ちなみに原作にはこの構図のカットはない)