1984年に発表されたものだが当時のプログレッシヴ・ロック・リバイバルとして出てきていたポンプロック的ジェネシス・クローンな音とも、Asiaのようなポップ化したプログレッシヴ・ロックとも異なる、70年代的雰囲気を持った音が特徴だ。
William Gilmour:キーボード、カバーアート
Grant Mckay Gilmour:ドラムス、パーカッション
Martin Russell:ベース、キーボード
Grant Mckay Gilmour:ドラムス、パーカッション
Martin Russell:ベース、キーボード
メンバーの担当楽器だけ見ると、EL&PやRefugeeのようなギターレスなキーボード・トリオということになるが、その音は全く異なる。まさにThe Enid直系な音である。
アコースティックな感覚とは例えばアナログ・シンセの音だったり、打楽器やフルート、トランペット、オーボエといった生の楽器だったり、デジタル・プログラミングのない時代に、少ない音でいかに情感豊かな世界を描こうとしているかという努力や工夫や、思い入れの強さだったりするのだが、このCRAFTのアルバムはThe Enidの再録時の音に違和感を感じて、そうした1970年代の手作り感を取り戻そうとしているかのような音なのだ。
と言ってもThe Enidのクラシカルで複雑に入り組んだ楽曲とも違う。軽やかに、そして甘美に疾走するロック色の濃い音になっている。リズム隊が常にしっかりボトムをキープするため、The Enidの持つ異形さは薄れたが、シンフォニック・ロック的な部分がストレートに前面に出た感じであり、そういう意味ではThe Enidの音より聴き易くなったとも言える。
にも関わらずフュージョンやニュー・エイジ的な方向とも違う、イギリス然とした格調のようなものを保っているところが大きな魅力でもある。
各曲は決してテクニカルな演奏に傾くことなく、クラシカルに優雅に、そしてダイナミックに進んでいく。そしてここぞというところでエモーショナルなギターソロが入るのだ、ギタリストはいないのに。
アルバムのインナースリーブに書かれた説明によると、そのギターソロにあたる演奏は実はいわゆる普通の「ギター」によるものではなく、「ベースギター」の音にカスタム・ペダルによるエフェクター処理をかけることで、「ギター」の音を作り出しているとのこと。ベースで魅いたソロなのでテクニカルさとは無縁な大きく包み込むような叙情性が、曲調ととてもマッチしていて感動的ですらある。
1980年代的な軽やかさを取込みつつも、1970年代への強い思いが込められている点では、昨今のヴィンテージ楽器を多用した70年代回帰型バンドに近いとも言える。時代の流れの中では流行とは無縁なある意味“無謀”な音楽だったろうけれど、そこがThe Enidゆずりの大きな魅力でもあるのだ。
The Enidが「Journey's End」で2010年に復活し、ウイリアム・ギルモアも音楽学校で教鞭をとりつつSecret GreenというThe Enid的なバンドを立ち上げている。ぜひ再評価したい傑作アルバムである。