昔々ラジオで聴いてとても印象に残っていたのだが
調べてみたら1973年のNHK「日曜名作座」で
全9回のラジオドラマとして放送され
森繁久彌なども出演していたのであった
1973年というまだまだ若かりし頃に
この作品がなぜそんなに印象に残ったかというと
「幽霊塔」という怪しい建物を取り巻く
暗くて重々しいミステリーという設定に加え
ラジオドラマという面白さに初めて触れたことも
とても大きかったように思う
当時はいわゆる「ラジカセ」を買ってもらって
「エアチャック」してカセットテープに残すという
とてもアナログでマニアックで
一発録りに賭ける技術と執念に
多くの男子が心躍らせていた頃であるが
そうした音楽番組とか落語番組とかとは違った
「ラジオドラマ」というラジオの楽しみ方が
きっととても刺激的だったのだ
と言いながら実は
全9回を最後まで聴いたような記憶が無いのだ
「黒岩涙香作『幽霊塔』」という重々しいナレーションと
謎の時計台というレトロで迷宮めいたイメージばかりが
記憶に残っいるばかりであった
そこでKindleの青空文庫で読んでみることにした
そうしたらこれが
非常に面白かったのである
翻案なので舞台や設定はイギリスで
街の名前や歴史は漢字を当てた英語名を使うが
登場人物や建物の名前などは日本語名である
でもその和洋折衷な感じも思ったほどの違和感はなく
逆に“ここでもそこでもない妖しい世界”みたいで
面白く読めてしまうのだ
むしろ「幽霊塔」「鳥巣庵」「養蟲園」「蜘蛛屋」など
ネーミングの素晴らしさに心が躍ってしまう
漢字や言い回しが古いのも重厚な雰囲気を醸し出し
何より新聞小説だったから一回分が短く
それがまた次に期待させるような終り方をするので
展開が強引かつご都合主義だったりしても
どんどん引込まれてしまうのであった
イギリスのような日本のような寂れた街や
打ち捨てられたような洋館と時計台や
息苦しくなるような迷路を舞台に
殺人事件&謎解き&恋愛&科学&冒険が
謎また謎を追いかけつつ繰り広げられ
最後の「大団円」に至るのである
実に良く出来ているのだ
人間の内面を描くことばかりを重視し過ぎて
こういう荒唐無稽な面白さが
小説からなくなってしまったんじゃないかなぁ
などとまで思ってしまったのであった
ただし自閉くんの親としては
世間体を気にして“白痴”を公の施設には入れず
秘密の場所で“飼い殺し”にするのだというくだりは
ちょっと読んでいてキツいものがあったけど…
でもそれはこの作品とか作者とかの問題ではなく
時代的に仕方なかったことなのだろう
もちろん実際にそういうこともあったんだろうしなぁ
というようなところで
ちょっと考えてしまうことはあったが
それでもこの作品は面白かったのであった