2014年1月3日金曜日

「失踪日記2 アル中病棟」吾妻ひでお

「失踪日記2 アル中病棟」
ギャグ漫画家吾妻ひでおが
鬱からの自殺未遂と失踪、そしてまさかのホームレス生活、
さらにアルコール依存症による精神科への強制入院など、
壮絶な実話を描いて数々の賞を受賞した
「失踪日記」(2005)に続いて、
その入院から退院までの非日常的入院生活を
赤裸々かつユーモラスに描く、
ノンフィクション的アル中記録マンガ第二弾である。
   

ユーモラスと言っても
確かにアル中病棟の“ヘンな人”も描かれるが
決してバカにしたり嘲ったりするわけではなく
でもちゃんと迷惑だなぁとか困ったなぁとか
コイツ嫌いだなぁとか思いつつ
そんなことを感じる自分にも
「卑屈だ」とか「やなやつ」とかツッコミを入れる、
その客観性や基本的な優しさから滲み出てくる面白味なのだ
  
扱っている内容は暗く非日常的ではあるけども
全体としてユーモラスな温かみにつつまれていながら
同時に笑いや共感を読者に求めないような
どこか冷めた淡々とした描写も魅力で
それが全体に重みを与えている

そして「失踪日記」がまるでドラマのように
凄まじい転落の物語を描いていたのとは異なり
今回は作者自身は安定していて
冷静に“アル中病棟”を描いているのだが
その密度がとても濃いのだ

それはまさに本のカバー絵が象徴している
多くの人物が等しく丁寧に描かれ
誰もが主人公という感じの
病院内の俯瞰図、
内容もまさにそんな感じなのだ

そしてまた絵そのものもこの俯瞰に見られるような
角まで丁寧にそして均質に描き込まれたコマが多い。
その話の内容と絵の密度に圧倒されるのである

だからこそここ一番で出てくる
大ゴマも実に効果的なのだ
そこに漂うホッとするような開放感とか漠とした不安感は
実に味わい深いものがあるのだ

これは「失踪日記」の二番煎じなどでは決してなく
単独作品として評価されるべき
著者渾身の傑作だと思う
  
そこまで悲惨な生活を経て
生きるか死ぬかの瀬戸際を歩くようなカラダになっても
一日一日を不安と戦いながら過ごす人たちに、
何だか深い共感を覚えるのであった

「酒無しでこの辛い現実に、どうやって耐えていくんだ?」

っていう
作品中にもあり腰巻きにも書かれた文章に
心を動かされたなぁ
    
具体的な困難や難題が目の前に無くても
生きることはそれだけで辛いことなのだよ、
ワタシは酒飲みでもアル中でもないし、
残念ながら酒の力をちょっと借りて、
目の前の現実に立ち向かうことも
今はできないんだけどね。