例えば車の乗り降りの正確な動き、発進と停止の人物の揺れ。
ちょっとした人物の表情やしぐさ。そして絶妙な間。
紅花をもぎる手の動き、 力の入れ具合、タイミング、間。
派手ではないんだけど、実に濃い映像だ。
モノローグが説明調なのがちょっと気になったけど、
アニメーションの豊かさでバランスが取られている。
そして懐かしい昭和の学校、テレビ、街の風景。
都会で自分を見失った女性が
大自然の中で農業に生きがいを見つけ出す、
という単純な話ではない。
いろいろなことが今の自分につながっていて、
何かを始める時には何かを思い出す。
何かが始める時は何かが思い出される。
そうやって人は前に進む。
そんな瞬間を描いた作品。
思い出される小学5年生の頃のエピソードは
一つ一つが実は辛いものばかりで、
ワタシも自分の小学校時代を思い出した。
あの何とも言えない
思い出したいような思い出したくないような日々。
でもそういう中を生きてきた自分に
今の自分も支えられているんだなぁという感情が、
最後の最後に押し寄せくる。
タエ子が決心を固めることではなく、
それを小学校5年の自分とクラスメートたちが
みんなで応援している映像に涙が出た。
なぜ泣けてくるかわからないんだけど、
これは確かにアニメーションではなければ作れないラストだ。
これは傑作だわ。
もちろん「となりのトトロ」のファンタジックな田舎に対して
高畑勲がリアリスティックな田舎で応じた作品でもある。