2016年1月16日土曜日

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読んだ

話題の新刊ハードカバーとして平積みになっている本には
どういうわけか食指は動かないのが常なので、
2013年に出た村上春樹の
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 」を
文庫本になった今読んだのだ。

正直に言えば

〝文庫本として平積みになっている〟今手に取ることも
ちょっと抵抗があるのだが、
そのくらいは何とか乗り越えられるのである。

頭に浮かんだことだけメモしておきたい。


・五人いたとしても、初恋の物語だ。
 恋は理不尽だし、自分勝手だし、不可解なのだ。
 それを理屈で納得しようとしている感じがしてしまう。
  
・微妙な感情を喚起する美しい比喩は健在。
 ただしもうスタイルになっているし、
 そのスタイルに自覚的である。 
 待ってました!みたいな感じ。
    
・本作に限らないけれど、食事の記述が多い割に
 「ごはんもの」が出てこない。
 トースト、野菜、果物、牛乳
 ビール、ピッツァ、フランス料理。
 物語とか登場人物の醸し出す、とてもストイックな世界に
 ラーメンとか牛丼とかカレーとかは似合わないんだろうなぁ。
   
・物語として美しいしのだけれど、
 誰もがもがき苦しみながらも、誰も激しい感情を外にぶつけない。
 冷静で、分析的で、受容的で、優しい。
 だから繊細な感情に触れることのできる喜びはあるけれど、
 それぞれが抱えている荷の重さがにリアリティがなくて
 切実さが物足りない気がしたなぁ。

・同様に、人を愛する気持ちの熱さとか切なさが伝わってこない。
    
・沙羅に魅力を感じなかった。
 なぜ、つくるが沙羅に惹かれるのかもピンとこない。
 (物語を展開させるつくるの行動は
  沙羅のアドバイスがきっかけだから、
  これは結構大きな点だと思う。)

もしかすると、この物語よりも

ワタシ自身がもう少しややこしい生き方をして来ていて、
どこか村上春樹ワールドに
物足りなさを感じるようになったのかもしれない……
などと、いう不遜なことを思ってしまった。

あ、でも今回は最後まで

トラウマになるような残酷描写がなくて
穏やかに読み終えることができて良かったな。