
架空の番地「ベーカー街221B」を拠点とし、医師のワトソン博士とともに、難事件を鮮やかな推理と抜群の行動力で解決していく物語は、1887年の「緋色の研究」とともに人気を博し、全60編にも及ぶ物語が作られることとなる。
病休に入り自己嫌悪とともに時間を持て余す毎日を送っていた頃、「刑事コロンボ」とともに精神安定剤的に役立ったのが、なぜかシャーロック・ホームズを読むことだった。「シャーロック・ホームズの生還
実際に久しぶりに読んでみると、ワトソンの描く依頼者の風貌やホームズの性格、事件現場などの情景がとても丁寧で細かいため、筋を追いトリックの種明かしを楽しむだけでない、読み物としての面白さもあることに気づく。

犯罪を待ち望んでいるような一面も持ち、事件がないと暇をもてあましパイプを吹かし、時にはコカインを注射する。多くの犯罪関係の資料を持ちながら、室内は乱雑。その常識的、模範的大人でないところ、“正義の味方”でも“理想的な紳士”でもない、どこか偏った性格と冷たそうな風貌がまたイイのだ。
ちなみにホームズ物は多くの俳優により舞台や映像になっているが、1984年から始まったグラナダTV制作の「シャーロック・ホームズの冒険

しかし実は彼はホームズ役の評価が高まるのとは裏腹に、妻を亡くしたショックから躁鬱病に陥り、心臓の病いもあって、心身ともにボロボロの状態でシリーズ後半の撮影に臨んでいたのだった。
それでも驚異的な意志で役を続けたが、1995年、ついに心臓マヒにより帰らぬ人となる。シリーズは全60話のうちの残り18編を残し、幕を閉じることとなる。
そんなことを知ったのは、ホームズを読み始めた後だった。映像はNHKで少し見た記憶があるだけだが、ジェレミー・ブレッドへの親近感は一気に高まった。躁鬱病でも死ぬまで役をやりとげた強さ。もちろん本来は頑張ってはいけないわけだけど。でもその生き方にとても勇気づけられたのだ。
そして、何気なく読み始めたシャーロック・ホームズが、こんな出会いに導いてくれたとは、これもまた不思議な縁だなぁと思ったのだ。ホームズに、そしてジェレミーに、わたしは支えられたのだった。